ポラーノの広場一覧
ポラーノの広場 序章
そのころわたくしはモリーオ市の博物局に勤めて居りました。 十八等官でしたから役所のなかでもずうっと下の方でしたし俸給もほんのわづかでしたが、受持ちが標本の採集や整理で生れ付き、好きなことでしたからわたくしは毎日ずゐぶん愉快にはたらきました。殊にそのころ、モリーオ市では競馬場を植物園に拵え直すとい
遁げた山羊
五月のしまひの日曜でした。わたくしは賑やかな市の教会の鐘の音で眼をさましました。もう日はよほど登って、まはりはみんなきらきらしてゐました。時計を見るとちゃうど六時でした。わたくしはすぐチョッキだけ着て山羊を見に行きました。すると小屋のなかはしんとして藁が凹んでいるだけであのみぢかい角も白い髪も見えま
つめくさのあかり
それからちゃうど十日ばかりたって、夕方、わたくしが役所から帰って両手でカフスをはづしてゐましたら いきなりあのファゼーロが戸口から顔を出しました。そしてわたくしがまだびっくりしてゐるうちに「たうたう来たよ、今晩は」と云ひました。 「あゝ、先頃はありがたう。地図はちゃんと仕度しておいたよ。この前の音は
ポラーノの広場
それからちゃうど五日目の火曜日の夕方でした。その日はわたくしは役所で死んだ北極熊を剥製にするかどうかについてひどく仲間と議論をして大へんむしゃくしゃしてゐましたから少し気を直すつもりで酒石酸をつめたい水に入れて呑んでゐましたらずうっと遠くですきとほった口笛が聞えました。その調子はたしかにあのファゼー
警察署
ところがその次の次の日のひるすぎでした。わたくしが役所の机で古い帳簿から写しものをしてゐますと給仕が来てわたくしの肩をつっついて「所長さんがすぐ来いって。」と云ひました。わたくしはすぐペンを置いてみんなの椅子の間を通り、間の扉をあけて所長室にはいりました。 すると所長は一枚の紙きれを持って扉をあけ
センダード市の毒蛾
そしてだんだん暑くなってきました。役所では窓に黄いろな日覆もできましたし隣りの所長の室には電気会社から寄贈になった直径七デシもある大きな扇風機も据えつけられました。あまり暑い日の午后などは所長が自分で立って間の扉をあけて「さあ諸君少し風にあたりたまへ。」なんて云ったものです。すると大扇風機から風がど
風と草穂
九月一日の朝わたくしは旅程表やいろいろな報告を持ってきまった時間に役所に出ました。わたくしはみんなにも挨拶して廻り、所長が出て来るや否やその扉をノックしてはいって行きました。 「あ帰ったかね。どうだった。」所長は左手ではづれたカラーのぼたんをはめながら云ひました。「はい、お蔭で昨夜戻って参りました。
ポラーノの広場 序章
そのころわたくしはモリーオ市の博物局に勤めて居りました。 十八等官でしたから役所のなかでもずうっと下の方でしたし俸給もほんのわづかでしたが、受持ちが標本の採集や整理で生れ付き、好きなことでしたから
遁げた山羊
五月のしまひの日曜でした。わたくしは賑やかな市の教会の鐘の音で眼をさましました。もう日はよほど登って、まはりはみんなきらきらしてゐました。時計を見るとちゃうど六時でした。わたくしはすぐチョッキだけ着て
つめくさのあかり
それからちゃうど十日ばかりたって、夕方、わたくしが役所から帰って両手でカフスをはづしてゐましたら いきなりあのファゼーロが戸口から顔を出しました。そしてわたくしがまだびっくりしてゐるうちに「たうたう来
ポラーノの広場
それからちゃうど五日目の火曜日の夕方でした。その日はわたくしは役所で死んだ北極熊を剥製にするかどうかについてひどく仲間と議論をして大へんむしゃくしゃしてゐましたから少し気を直すつもりで酒石酸をつめたい
警察署
ところがその次の次の日のひるすぎでした。わたくしが役所の机で古い帳簿から写しものをしてゐますと給仕が来てわたくしの肩をつっついて「所長さんがすぐ来いって。」と云ひました。わたくしはすぐペンを置いてみん
センダード市の毒蛾
そしてだんだん暑くなってきました。役所では窓に黄いろな日覆もできましたし隣りの所長の室には電気会社から寄贈になった直径七デシもある大きな扇風機も据えつけられました。あまり暑い日の午后などは所長が自分で
風と草穂
九月一日の朝わたくしは旅程表やいろいろな報告を持ってきまった時間に役所に出ました。わたくしはみんなにも挨拶して廻り、所長が出て来るや否やその扉をノックしてはいって行きました。 「あ帰ったかね。どうだっ